戦型は相掛かり。互いに飛車先の歩を繰り出す出だしだ。私は子供の頃よく指した形で、そしてよく負けた。でも、初心者には楽しい形なのだ。とにかく飛車が使えるのだから。
さて。
羽生の棒銀模様に、渡辺が五二玉の中住まい。こうなると穴熊には組み替えられない。渡辺は攻めるしかない。
五年前の王座戦挑戦の頃の渡辺明は、相掛かりに似た横歩取りを得意にしていた。それで羽生は苦しめられた。危うく王座を奪われるところだった。森内は渡辺に竜王を奪われた。
そして、五年が過ぎた。渡辺明は横歩取りや相掛かりはあまり指さなくなった。激しい戦いよりも、矢倉や穴熊という合理的な作戦を好むようになったと思う。
羽生は三連勝し、渡辺が得意としていた戦型に誘導したのではないかと思う。羽生が苦しめられたあの頃の渡辺明に勝ち、竜王を奪おうと考えたのだろうか?だとしたら、渡辺から全てを奪う冷徹さだ。
渡辺明はこの対局に敗れれば、立ち直れないほどの痛みを感じただろう。
この対局は羽生が有利に進めた。堅陣に籠もり、渡辺が攻めざるを得なくした。渡辺玉が入玉を目指し、敵陣に突き進む。局面は渡辺玉が動く場所がない、羽生の飛車、金、香に囲まれる絶体絶命になった。
羽生の持ち駒は桂に歩。歩を渡辺玉の前に打てば詰みだが、それは打ち歩詰めといって反則になる。
渡辺は完全に終わりを迎えていながら、打ち歩詰めというルールだけに生きながらえていた。
両者はこの局面を当然読み切っていただろう。
だが、一枚でも羽生に駒を渡せば、渡辺は負ける。
冷静に飛車をうち、羽生の攻めの支えの 銀と羽生玉につめろをかけた渡辺明。
さすがだね。

